裸足の天使



「一緒に、ソラちゃんのとこに行こうよ」

朝、ゆっくり歩いてきたアカネちゃんが切り出した。

「ソラちゃんって、あの、、ソラちゃん?」

私が驚いて声を上げると、アカネちゃんはうなずいた。

「今日はね・・・・私がお迎えに行く順番なんだ」

ソラちゃんは、隣のクラスの女の子。

私は、たくさんのことは知らないんだけど

どうやら、学校に来なくて、みんな困ってるみたい。


アカネちゃんは、私の幼稚園のころからのお友達で

小学校に入って、クラスが違っても、ずっと一緒に登校してきた。

隣のクラスの子のお迎えなんて、いやだろうなって

気にしてたのかな、アカネちゃん。

「いいよ。行こう」

私がうなずくと、アカネちゃんは、ほっと安心したように微笑んだ。

隣のクラスの子は、順番に、毎朝ソラちゃんをお迎えに行くことになってるんだ。

ソラちゃんって、名前は聞くんだけど、どんな子なんだろう

私は、ちょっと興味津々。


「ごめんくださーい」

「おはようございまーす」

ソラちゃんのお家は、長屋の一角にあって

ガラスの引き戸をガタガタいわせて、私たちは声を張り上げた。

「ソラちゃーん、学校に行こう」

「はぁーい」

奥のお部屋から、返事がした。

どうやら、おばあちゃんの声のようだった。

ソラちゃんをせきたてているような小さな話し声がして

でも、誰も玄関には出てこない。

私はお家の外でプラプラ待つことにした。

しばらくしてから、ソラちゃんのおばあちゃんがやってきて

アカネちゃんに、頭を下げていた。

ガラス戸を、静かに閉めて、アカネちゃんが外に出てきた。

「ソラちゃんは?」

「・・・今日は、学校に行きたくないって」

アカネちゃんは、ちょっと低めの声で、言った。


ソラちゃんがいつから、学校に来なくなったのか

それは私にはわかりっこないし

たぶん、アカネちゃんにもわからないことだった。

ソラちゃんが、なんとか学校に来るように

お家の人と、先生とで話し合って、

クラスの子が 毎日お迎えに行くことにしたらしい。

「ソラちゃん、、来るときもあるけど、来ないときのほうが多いよ」

アカネちゃんはそう言って、学校前の坂を上っていった。

学校に来ない理由は何なんだろうね。

それがわかれば、ソラちゃんも来るのかな。

「さあ?みんな、わかんないみたい。お家の人も、先生も」

ソラちゃんの気分次第なのかな。


運動会の日。

アカネちゃんが私のそばに来て、ささやいた。

「ソラちゃんが、来てるよ」

「え!」

どれどれ?と見回す私に、アカネちゃんが、そこそこ、とこっそり指差した。

ソラちゃんだ。

そういえば、ソラちゃんって、あの子だったんだ。

運動会に来るなんて・・・・

ダンスの練習はできてないはずだけど。

大丈夫なんだろうか。

だけど、ソラちゃんは楽しそうに席に座っている。

何も心配してないみたい。


私は、走るのが遅い。 だから、本当は運動会なんて出たくない。

ああ、苦手な徒競走だ。

列を作って待ってる間も、イヤでイヤでしょうがない。

私が走る前に、ソラちゃんが走るようだ。

どうなるんだろう、思わず背伸びして見てしまう。

「位置について。ヨーイ」

パン!と乾いたピストルの音とともに、スっと飛び出したのは

ソラちゃんだ。

速い!

そのままトップで走り抜けてしまった。

ソラちゃん、、、足が速いんだ。


運動会はすすみ、遂に最後のクラス対抗リレーが始まった。

1年生から6年生まで、縦割りのクラスでチームになる。

最後に走るアンカーは6年生で、ほかの学年の人よりも長い距離を走ることになっている。

隣のクラスのアンカーを見て、私は驚いた。

ソラちゃんが、ニコニコと笑いながら、アンカーの目印のたすきをかけている。

いつも学校に来ていないソラちゃんが、アンカーなんだ。

パン!

私の戸惑いなんか知ったこっちゃないってピストルが鳴り響き

1年生選手がスタートした。

バトンを渡すたびに順位が入れ替わって、観客席も、拍手と大声で盛り上がる。

ソラちゃんのチームの走者は、今のところ、3位だ。

すると、待っていたソラちゃんは、5年生が走り出すと同時に

履いていた運動靴をぬぎだした。

え!

ソラちゃんは、そのままコースに出て、向かってくる5年生を待つ。

バトンを受け取ると、ソラちゃんはものすごい速さで走り出した。


前に走っている人を、一人抜いた。

大歓声に押されるように加速するソラちゃん。

普通の徒競走より、長い距離だ。 疲れてきたもう一人を抜くソラちゃん。

3位から、トップになって

ソラちゃんは胸を張って、テープを切った。

裸足で走り抜けたソラちゃん。

走ることが、なによりも好きだった。



「わたしは、がっこうのなかで、うんどうかいがいちばんすきです。

それは、だれよりもはやくはしれるからです。

きょうそうでは、いつもいちいです。

うんどうかいは、やすんだことがありません。」



ソラちゃんは、今でもどこかで走っているんだろうか。

好きなことなら

きっと、できるよね。



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